最近,ニュースなどでも,「ペロブスカイト太陽電池」が次世代の有望な軽量太陽電池として取り上げられることが多い。この太陽電池の実用化には,さらなる特性の向上と大量製造技術開発が重要であり,材料とプロセスの開発を担う化学に対する期待は大きい。
鍵となる光電変換材料は,ABX3型で表される金属ハライドペロブスカイト半導体である。この材料の半導体特性の本質は,BとXサイトに用いられる元素の3次元に広がった軌道であり,無機の固体材料の特徴を反映している。一方で,Aサイトにはアルキルアンモニウムが用いられるなど,有機と無機の複合材料でもある。特に材料の溶液を塗って作るという点で,有機化学の本領が発揮できる研究領域でもある。実際,有機化学の視点からの開発研究が功を奏する例も多い。
阪大の安蘇研出身の遠藤博士(現 ダイセル)は,前駆体材料の残存水分量に着目して,再現良く高性能な太陽電池を作製するためにはPbI2の高純度化が重要であることを見いだした1)。また,中村助教(京大)は,笹森教授(筑波大)との議論から,鉛フリー型ペロブスカイト半導体のBサイトに用いるSn(II)を,典型元素化学での「スタンニレン」と捉え,真島試薬2)を用いたSn(IV)スカベンジャー法を開発し,高性能化に繋げている3)。さらに最近では,中国で赤坂名誉教授(筑波大)に構造有機化学の薫陶を受けたHu君(京大,D3)が,独自に設計したアミンを用いたペロブスカイト薄膜の表面パッシベーション法を開発し,スズを含む太陽電池の世界記録となる23.6%の光電変換効率を達成している4)。
様々な化学の視点から研究開発を進めることで,近く,日本発のペロブスカイト太陽電池を世に出すことができるものと期待している。
1) A. Wakamiya et al., Chem. Lett. 2014, 43, 711.
2) T. Saito et al., J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 5161.
3) T. Nakamura et al., Nat. Commun. 2020, 11, 3008.
4) a)S. Hu et al., Energy Environ. Sci. 2022, 15, 2096; b)S. Hu et al., Adv. Mater. 2023, 35, 2208320.
若宮淳志 京都大学化学研究所