日本化学会

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プラズモンを用いたエネルギーアップコンバージョン

Harnessing Infrared Solar Energy with Plasmonic Energy Upconversion

太陽光エネルギーは,人類社会の持続的な発展を支えることのできるクリーンで持続可能なエネルギー源であり,その有効利用に大きな注目が集まっている。その一方で,太陽光のおよそ半分を占める赤外域の太陽光は現在までに有効に利用されていなかった。赤外域の太陽光の利用技術の開発は,人類に新たなエネルギー資源をもたらす。しかしながら,捕集が困難でエネルギーの低い赤外光のエネルギー資源化には有効な技術がなかった。このため,赤外光の利用は太陽光エネルギーの研究の中でも,ひときわ大きな挑戦であると位置付けられてきた。
アップコンバージョンという現象は,低いエネルギーの光から,高いエネルギーを作り出す性質上,エネルギーの低い赤外光を触媒反応や光発電に応用するためのカギを握る現象だ。
筆者らは,局在表面プラズモン共鳴(LSPR: Localized Surface Plasmon Resonance)を示す材料を用いた赤外光のエネルギーアップコンバージョン技術を開発し,可視光でしか進めることのできない光化学反応を赤外光を用いて進めることに成功した(図1参照)1)。LSPR材料を用いたエネルギーアップコンバージョンの機構は光触媒活性の評価と超高速分光測定技術によって明らかにされた。開発された技術は,赤外光で多彩な反応を進めることが可能な光触媒や赤外光応答太陽電池への応用が期待される。今後は,触媒のさらなる性能向上とともに,今回発見されたエネルギーアップコンバージョン機構の詳細な解明を進める予定だ。

chem76-06-02.jpg図1 プラズモンを用いたエネルギーアップコンバージョンを利用した赤外光触媒反応

1) Z. Lian et al., Nat. Sustain. 2022, 5, 1092.

坂本雅典 京都大学化学研究所