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高温でも安定かつ大気中でも扱えるC60の二次元精密配列

Two-Dimensional Precise Array of C60 with Thermal Stability and Air Durability

固体表面における機能性分子の精密配列化や高次組織化は,ボトムアップ法による不均一触媒や分子エレクトニクス材料の開発につながるため注目を集めている。例えば,ポルフィリンやフタロシアニン錯体,フラーレン類を配列するために,金属表面上の自己集合により構築した二次元MOFや水素結合性ネットワークの孤立空間に機能性分子を捕捉する方法が用いられてきた1, 2)。一方で,均一なサイズの内部空間をもつ「大環状化合物」そのものを並べて,二次元多孔性構造を構築する試みも行われている。この二次元結晶工学において,走査型トンネル顕微鏡(STM)は,一分子レベルの吸着過程を観測する上で有効な実験手法として用いられており,熱力学的な平衡や分子の動的な吸脱着を観測する固-液界面でのSTM観察が盛んに研究されてきた3)。しかし,難揮発性溶媒中の可逆的な結合に基づく実験系であることから,その分子配列を系外に取り出すことが難しく,その方法論の開発が課題の1つであった。
最近,超高真空条件下において,Au(111)基板上に構築した大環状化合物からなる二次元多孔性結晶の上にフラーレンC60を真空蒸着することで,約4 nmの周期でC60を二次元周期的に精密配列させることに成功した4)。そのC60の分子配列は約200℃の高温や大気下でも周期構造を維持できる。吸着によりC60の電子状態も変化することが示されており,今後精密な周期構造を利用した分子デバイスへの応用が期待される。

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1) L. Bartels, Nat. Chem. 2010, 2, 87.
2) D. P. Goronzy et al., ACS Nano 2018, 12, 7445.
3) J. Teyssandier et al., Chem. Commun. 2016, 52, 11465.
4) S. Kawano et al., J. Am. Chem. Soc. 2022, 144, 6749.

河野慎一郎 名古屋大学大学院理学研究科