日本化学会

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似て非なる分子の固溶化

Solid-solution of Heteromorphic Molecules

有機結晶では,分子の体積や格子の差が15~20%以下の場合に固溶化できると言われている。無機固体ではHume-Rothery則と呼ばれ,形状のある分子においてもおおむね成り立つ1)。一方,この一般則から外れた分子固溶体も存在し,構造のdisorderが仕掛けになる。静的・動的にかかわらず,乱れた構造では些細な違いは無視でき,平均構造が似た異形分子も固溶化する1, 2)。筆者らはこれまで,平均構造が似た対称性の異なる異形分子の固溶体に着目し,その構造と誘電性について有機結晶を無機化学的なアプローチで研究してきた。
1,4-diazabicyclo[2.2.2]octane (dabco)とhexamethylenetetramine (hmta)は分子径の点ではHume-Rothery則を満たし,+1価では塩化セシウム型構造(もしくは水素結合鎖構造),+2価ではペロブスカイト型構造をとりやすいなど結晶構造も比較的近い。一方で,分子間相互作用や正電荷を担うヘテロ原子の配置は異なる。
これまでに,dabcoとhmtaをカチオンとした固溶体を新たに作製し,構造の温度依存性を細かく調査したところ,固溶体は各成分に比べて分子の運動性が高まり,構造相転移がより散漫になる変化が明らかになった(図1)3)。現在では相転移温度を下げる効果も明らかになるなど,分子運動に由来する誘電性・相転移が固溶化により変調できることがわかりつつある。
 有機結晶はセラミック強誘電体の代替として注目され,物性値では無機系を上回る物質もある。しかし無機材料ほど,転移温度や物性値を細かく調整できないことが課題の1つであり,似て非なる分子の固溶体は新たな解決策と言える。

chem76-07-01.jpg図1 dabco(左)とhmta(右)の構造


1) A. I. Kitaigorodsky, Mixed Crystals, Springer-Verlag, 1984.
2) R. Tsunashima, CrystEngComm 2022, 24, 1309.
3) R. Tsunashima et al., CrystEngComm 2020, 22, 2279.

綱島 亮 山口大学大学院創成科学研究科