日本化学会

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エンベロープ型ウイルスレプリカ

Enveloped Viral Replicas

コロナウイルス等の「エンベロープ型ウイルス」は,核酸・タンパク質複合体であるヌクレオキャプシドを脂質二分子膜が覆っており,その表面に感染に関与する膜タンパク質を搭載している。筆者らは,人工設計した分子集積により,「エンベロープ型ウイルスレプリカ」の創製に成功している。C末端側に2つのGlu付与したTBSV由来β-annulusペプチドの自己集合によりアニオン性人工ウイルスキャプシドを構築し,これをカチオン性脂質二分子膜と複合化してエンベロープ型人工ウイルスキャプシドを構築した1)。また,無細胞タンパク質発現により膜タンパク質コネキシン43を搭載させたエンベロープ型ウイルスレプリカを構築し,HepG2細胞とのギャップジャンクション形成による物質輸送にも成功した2)。さらに最近,乳がん抗原ペプチドCH401と脂質アジュバントα-GalCerを表面提示したエンベロープ型ウイルスレプリカを構築した。これをマウスに導入したところ,エンベロープがない抗原提示キャプシドと比較して,アレルギー反応を抑えつつ顕著に高い抗体産生を誘導できることを見いだした3)。よって,抗原/アジュバント提示エンベロープ型ウイルスレプリカは,新規がんワクチンとして有望であると考えられる。

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1) H. Furukawa et al., Chem. Commun. 2020, 56, 7092.
2) H. Furukawa et al., RSC Chem. Biol. 2022, 3, 231.
3) K. Ito, H. Furukawa et al., J. Am. Chem. Soc. 2023. doi: 10.1021/jacs.3c02679

松浦和則 鳥取大学学術研究院工学系部門