日本化学会

ハイブリッド金属水酸化物ナノシートによる自己修復電極触媒

Hybrid Metal Hydroxide Nanosheets for Self-Repairing Electrocatalysts

カーボンニュートラルに向け，再生可能エネルギーを用いた水電解によるグリーン水素への注目が高まっている。再生可能エネルギーによる電力を用いたアルカリ水電解では，電力変動に伴う電極劣化が深刻な問題となる。高活性と長寿命を両立した電極材料のためには電解液から触媒を供給し，電解中に電極触媒を修復する自己修復^1）の活用が期待できる。
筆者らはH₂N-C(CH₂OH)₃等の三脚型配位子により修飾された新材料であるハイブリッド水酸化コバルトナノシート(Co-ns)²⁾が変動電力下で自己修復触媒となることを報告した³⁾。
最近の速度論的検討⁴⁾より，Co-nsの修復は，Co^2＋の酸化により進行し，触媒析出速度が電極の酸素発生電位に依存することがわかった。これは触媒が劣化すると，酸素発生電位が増大し，修復が自動的に開始されることを意味している。
触媒修復機構は有機修飾されていないCo(OH)₂でも生ずるが，Co^2＋が電解液中の酸素により酸化されると修復能が失われる。Co-nsでは，有機修飾によりCo^2＋が酸化から保護され，長期的な安定性を獲得したことがわかった。
自己修復触媒の設計における有機修飾の有効性が明らかとなり，水電解の信頼性向上に寄与する高活性，長寿命な自己修復電極触媒の進展が期待される。

1） S. Barwe et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2017, 56, 8573.
2） Y. Kuroda et al., Chem. Eur. J. 2017, 23, 5023.
3） Y. Kuroda et al., Electrochim. Acta 2019, 323, 134812.
4） R. Nakajima et al., ChemSusChem 2023, e202300384.

黒田義之 横浜国立大学大学院工学研究院