アダマンタンはC10H16で表される三環式飽和炭化水素である。嵩高い構造に由来した特異な性質をもつことから,アダマンチル基をもつ分子は広く活用されてきた。例えば,熱活性化遅延蛍光材料であるトリアジン誘導体に対してアダマンチル基を導入することで,溶液プロセスに利用可能な高効率深青色発光材料となることが報告されているほか1),トリアダマンチルホスフィンはパラジウム触媒に特異な反応性を付与することが知られている2)。また,分子間で分散力が強く働くことを活かし,合成反応における選択性制御3)やアダマンチル基を配向基として用いた遷移金属カルコゲニドナノワイヤーの合成が行われている4)。
一方で,アダマンタン骨格をほかの分子骨格に「縮環」させた分子群は合成されてこなかった。筆者らは,アダマンタン骨格を芳香族分子に縮環させることで新たな機能性材料を創製した5)。4-プロトアダマンタノンを前駆体に用い,アリール基の付加,酸による脱水およびカルボカチオンの転位,芳香環とアダマンタン骨格間の環化によりアダマンタン縮環芳香族分子を合成できることを見いだした。1つのアダマンタン縮環により,芳香族分子に高い溶解性を付与できることや安定性の高いカルボカチオン種を形成することがわかった。シンプルかつコンパクトな構造による芳香族分子の修飾法であり,ダイヤモンド構造とグラフェン構造のハイブリッド分子とみなせることからも,新たな機能性材料の創製につながると期待される。
1) H. Kaji et al., Adv. Mater. 2018, 30, 1705641.
2) B. P. Carrow et al., J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 6392.
3) T. Ikawa, H. Tokiwa, S. Akai et al., J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 10853.
4) N. A. Melosh et al., Nat. Mater. 2017, 16, 349.
5) A. Yagi, K. Itami et al., J. Am. Chem. Soc. 2023, 145, 11754.
八木亜樹子 名古屋大学ITbM