ホウ素による原子層材料は高い柔軟性と物理的強度からポストグラフェン材料として注目され始めている。
筆者らはこれまでに金属錯体による単原子層シートを合成してきたが1),今回カリウムカチオンを鋳型とした構造制御手法を新たに開発することで,ホウ素骨格を有する単原子層材料の合成に成功した。合成は液相で行い,ホウ素と酸素から成る単原子層がカリウムカチオンと交互積層している結晶を作成した。この結晶は六角形の柱状をしており,側面に観察される無数の線が,二次元シートが積層している様子を表している。実際にX線回折法により,結晶の長軸方向と単原子層の積層方向が一致することを確認できた。この物質は負の電荷を持つ二次元物質と,正の電荷を持つカリウムからなるイオン性の物質であり,極性溶媒に溶解する。この溶液を塗布することで原子層物質を簡便に作成できる点は特に魅力的である2)。
この単原子層の積層結晶に対して加熱脱水処理を行うことで液晶が得られた。脱水反応はエッジ部位で生じ,結晶では同一平面内に存在するB-OH部位が立体性のあるB-O-B構造へと変化した。このエッジ部位の立体化により層間の距離が0.1 Å程度広がり,イオンの流動性が上がったことが液晶化につながったと考えられる。本手法で合成した液晶は無機元素のみで構成されており,一般的な有機物とは本質的に異なる高い熱安定性を示した3)。電圧印加によるデバイスへ応用も可能であり,新たな液晶材料としての展開が期待できる。
1) a)T. Kambe et al., J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 2462; b)T. Kambe et al., J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 14357.
2) a)T. Kambe et al., J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 12984; b)T. Kambe et al., Dalton Trans. 2023. doi: 10.1039/D3DT01636F
3) T. Kambe et al., Nat. Commun. 2022, 13, 1037.
神戸徹也 大阪大学大学院工学研究科