日本化学会

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ジアステレオ選択的結晶化に基づく円偏光発光特性の制御

Control of Circularly Polarized Luminescence Properties Based on Diastereoselective Crystallization

円偏光発光(CPL : Circularly Polarized Luminescence)は,キラルな色素が右または左円偏光を過剰に発する現象を指し,3次元ディスプレイやセキュリティデバイスなどへの応用が期待されている。近年では,外部環境や刺激によってCPL特性を自在に制御できる材料に注目が集まっている1)
筆者らはキラルシッフ塩基配位子を用いた円偏光発光性錯体の合成に取り組んでおり,これまでに高分子分散フィルム2)や無溶媒液体状態3)など種々の環境下において希薄溶液状態とは異なるCPL特性を示す材料を開発してきた。その中で,シッフ塩基Zn(II)錯体1がジアステレオ選択的結晶化に基づくCPL特性の切り替えを示すことを見いだした4)。錯体1は希薄溶液状態においてΛ-(S,S)-体とΔ-(S,S)-体のジアステレオマー平衡を示し,NMR測定の結果からΛ-(S,S)-体に平衡が偏っていることが判明した。一方,錯体1を蒸気拡散法により結晶化させたところ,準安定なΔ-(S,S)-体のみで構成された結晶が選択的に得られた。各状態におけるCPL特性を評価したところ,同一錯体にも関わらず,溶液では正,結晶をすりつぶして作成したKBrペレットでは負のCPLが観測された。このように,結晶化に伴うキラリティーの反転により,溶液とは異なる物性を引き出すことが可能になった。今後も結晶化を鍵とした新奇なCPL特性を示す材料の開発が期待される。

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1) J.-L. Ma et al., Chem. Eur. J. 2019, 25, 15441.
2) M. Ikeshita et al., ChemystryOpen 2022, 11, e202100277.
3) M. Ikeshita et al., ChemPhotoChem 2023, 7, e202300010.
4) M. Ikeshita et al., Chem. Commun. 2022, 58, 7503.

池下雅広 日本大学生産工学部