CO2を酸化剤としたプロパンの酸化脱水素(CO2-ODP)は,基幹化学品であるプロピレンの製造とCO2の有効利用,既存工業プロセスのカーボンニュートラル化を同時に達成可能な有望な反応である。本反応は基礎研究としては古くから研究されてきたが,プロパンとCO2を同時にかつ高効率に活性化し,なおかつ高いプロピレン選択性と長期安定性を維持することが困難なため,これまで有効な触媒が開発されていなかった。多元素合金では,複数の活性金属元素を原子レベルで近接させることができるため,CO2-ODPのような高難度分子変換を高効率に進行させるための優れた反応場を提供することができる1, 2)。筆者らは最近,CeO2担体上に担持されたPt-Co-In三元ナノ合金が本反応において極めて高い触媒活性,C3H6選択率,安定性,CO2利用効率を示すことを見いだした(いずれも世界最高性能)1)。ここではPtはプロパンのC-H活性化,CoはCO2の活性化,InはC-C開裂などの副反応の抑制をそれぞれ担っており,またCeO2担体は格子酸素の放出により副反応由来のコークを燃焼させ,触媒の耐久性を高める。また筆者らは,これをさらに6元系に多元素化した(PtCoNi)(SnInGa)/CeO2触媒がより高い耐久性を示すことも報告している(図1)2)。以上の内容について,2023年8月末に行われたディビジョン勉強会で発表し,産学双方の参加者とディスカッションを行った。
図1 Pt-Co-In/CeO2触媒上でのCO2-ODP反応のメカニズム
1) F. Xing, Y. Nakaya, S. Yasumura, K. Shimizu, S. Furukawa, Nat. Catal. 2022, 5, 55.
2) F. Xing, J. Ma, K. Shimizu, S. Furukawa, Nat. Commun. 2022, 13, 5065.
古川森也 大阪大学大学院工学研究科