日本化学会

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一次元らせんペロブスカイトによる円偏光検出

One-dimensional Helical Perovskite for Highly Sensitive Circularly Polarized Light Detection

偏光は,人間の目では検出できない有用な情報を含む。例えば,円偏光は,物体を曲げたときに見られる複屈折や応力の分布など,通常の光では識別できない物体の多様な情報が反映される。光子レベルで偏光(特に円偏光)情報を捉えることができれば,量子状態から生体機能に至るまで,これまで明らかにされてこなかった新しい現象や機構の解明が可能となる。一方,Siなどの既存の半導体を用いた偏光センサは,直接偏光成分を検出することができないため,偏光子などのフィルターを半導体素子に積層する必要がある。ピクセルごとに偏光方向を分離して光を検出する構造のため,検出感度や消光比の向上が課題となっている。
筆者らは,円偏光の直接検出を実現するため,無機物質の一次元らせん配列を分子キラリティにより操作した有機無機ハイブリッド構造と一次元配列による特異的な電子・スピン状態を利用した新しい半導体材料の開発を進めている1)。これまでに,ナフチルエチルアミン系の有機キラル分子をハロゲン化鉛に作用させることで,一次元らせん構造を有するペロブスカイト薄膜の作製に成功した。無機結晶全体に一次元らせんに由来するキラリティが誘起された本系は,有機キラル分子よりも数千倍強い円偏光二色性吸収特性を示す。さらに,一次元らせんペロブスカイト薄膜を受光層として用いた光検出素子は,右あるいは左円偏光を電流信号として選択的に直接検出することが可能である。円偏光の回転方向に対する検出感度比は25.4であり,円偏光を直接検出する素子として最高値を達成した。円偏光に対する高い感度は,一次元らせん構造からなる強い円偏光吸収特性とPbおよびIの強いスピン相互作用によるスピン偏極状態の形成によるものと考えられる。既存の高次元半導体の限界を突破する新しい光デバイス機能として今後の展開が期待される。

chem76-12-01.jpg1) A. Ishii, T. Miyasaka, Science Adv. 2020, 6, eabd3274.

石井あゆみ 早稲田大学先進理工学部