日本化学会

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機能分子の細胞内輸送を実現する担体表面の構築

Construction of Carrier Surface for Intracellular Delivery of Functional Molecules

細胞内機能分子として,DNAやRNAなどの核酸,ペプチドやタンパク質,細胞内低分子化合物など多様な分子が存在する。筆者らはこれらの機能分子をキャリア内に包埋し,ガラス,プラスチック,金属などの担体表面に吸着させ,細胞が担体表面に接触したときにキャリアごと細胞内に取り込まれる仕組みを考案した(図1)1)
核酸またはタンパク質をキャリア(カチオン性脂質二重膜)で包み込み,表面が正の電荷を持つキャリア複合体を作成する。一方,ガラス,ポリスチレン,金属などの担体表面を酸素プラズマでアニオン化することで,キャリア複合体は担体表面にイオン相互作用により強力に結合する。核酸のケースでは,キャリア複合体としてリポプレックスを担体表面に結合させるが,この結合は非常に強く1日以上の緩衝液による洗浄にも耐えることがわかった2)。その一方,キャリア複合体が細胞と接触すると速やかに細胞質内にエンドサイトーシスにより取り込まれる。細胞内に取り込まれた機能分子は,膜融合または膜破壊の機構を介して,エンドソームから細胞質に脱出する。
本技術をベースとして筆者らは,遺伝子発現2)や薬剤添加3)に対する細胞応答の検出,磁力により自立遊泳するキャリアを用いた遺伝子デリバリー4),などへの応用研究例を示しており,創薬開発や遺伝子治療への応用が期待できる。

chem76-12-04.jpg図1 固相担体上の核酸の細胞内輸送

1) K. Hori et al., J. Biosci. Bioeng. 2021, 133, 195.
2) S. Fujita et al., Lab Chip 2013, 13, 77.
3) S. Fujita et al., Biofabrication 2017, 9, 011001.
4) F. Qiu et al., Adv. Funct. Mater. 2015, 25, 1666.

藤田聡史 産業技術総合研究所