持続可能社会の実現のためには,性別や年齢に関係なく,すべての人が生き生きと活躍し,経済的・文化的発展をもたらす好循環を生むことが重要である。当社はそのような社会づくりに貢献すべく,培ってきた材料技術を活かし,貼るメイク「メイクアップシート」としての新事業創出および技術開発に取り組んでいる。メイクアップシートは,従来の「塗る」化粧では隠すことができない深い肌悩み(後天的なシミやあざ,先天的な皮膚疾患など)を自然に隠蔽可能な,ジェンダーレス・環境配慮型のシート化粧品である。構造としては,接着剤レスで肌に密着可能な薄膜のフィルムに,化粧品用途で使われる材料のみから構成される独自の化粧料インクを積層印刷したものである。肌上においてシート貼付部の境界がわからず,他者から見て「貼っていることがわからない」自然な外観を追求している。
化粧料インクに求められる要件として,①化粧品材料のみで構成され生体に安全であること,②肌色表現性・隠蔽性が高いこと,③薄膜フィルムに定着可能であること,④印刷ノズル面からの吐出・曲がりなき液滴飛翔が可能であることが求められる。しかし,④の印刷適性を追求すると①②③の化粧性能がトレードオフとなることが課題である。そこで,筆者らは,吐出制御技術を駆使しながらインク材料の組成や分散設計を最適化させ,印刷適性と化粧性能とを両立するインクを開発し,さらに印刷インク層の隠蔽性を向上させるため,独自のインク層積層構造を開発し,薄膜フィルムに高隠蔽性な印刷品質を実現した。具体的には,印刷ヘッド駆動電圧・波形(強さ・位相・印加タイミング等)の制御で印字画質を最適化するとともに,材料の分光特性を活かした独自の印刷積層構造により,インク層の厚みに頼らず薄い膜厚で濃いシミを隠蔽可能とした。結果,高い隠蔽性ながら,厚塗り感がない化粧品質を実現することができた。
現在,本技術は事業化に向け鋭意検討中であり,機能性材料を印刷積層可能な薄膜技術として,化粧品以外の用途拡大についても検討中である。以上の内容について,2023年8月末に行われたディビジョン勉強会で発表し,産学両方の参加者から様々な貴重な意見を頂戴し,充実した議論の時間をいただいた。
小野寺真里 パナソニック インダストリー株式会社