日本化学会

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高次励起状態からの発光増強効果

Enhancement of Emission from Higher Excited State

分子はHOMO-LUMO間のエネルギー差より高いエネルギーの光を吸収すると,高次励起状態へと遷移する。高次励起状態の寿命は一般に非常に短く,速やかに最低励起状態へと失活する。そのため多くの光反応や発光は最低励起状態から進行し,これらが高次励起状態から進行する分子はまれである。
しかし,近年では高次励起状態にある分子は最低励起状態では起こり得ない光反応や,独特の発光特性を示す場合があることが報告されている。これはいわゆるKasha則に反するものであり,新たな光反応系・光機能性の開拓が期待できる1, 2)
最低励起状態においては分子の振動や回転運動を分子を取り巻く環境により抑制し,発光増強や励起寿命の長寿命化を達成した例がある3, 4)。筆者らはこれと類似した機構により高次励起状態の発光増強や長寿命化が達成できるのではないかと着想した。第二励起状態(S2状態)からの発光を示すポルフィリン系色素をナノシート化合物表面に吸着させた結果,meso位の置換基とポルフィリン環の共平面化による長波長シフトが観測され,またS2発光の量子収率が増加する(1.0×10-3→1.8×10-3)ことを見いだした。また高次励起状態の寿命が伸び(0.88 ps→1.3 ps),これらの結果が高次励起状態からの無輻射遷移速度定数の減少に由来することを明らかにした。劇的な効果には至っていないが,本系は分子骨格を変更することなく,媒体によりS2状態の発光増強・長寿命化が可能であることを示した稀有な例であると考えている。現在はさらなる長寿命化や光反応への応用に挑戦している。

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1) P. T. Chou et al., Chem. Rev. 2017, 117, 13353.
2) G. Brancato et al., J. Phys. Chem. B 2015, 119, 6144.
3) B. Z. Tang et al., Chem. Rev. 2015, 115, 11718.
4) S. Takagi et al., J. Phys. Chem. C 2013, 117, 2774.

藤村卓也 島根大学大学院自然科学研究科