日本化学会

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カーボンナノチューブ近赤外蛍光材料の創製

Creation of Near-infrared Luminescent Carbon Nanotubes

半導体型単層カーボンナノチューブ(SWCNTs)からは,第一バンド間遷移(E11)に対応する近赤外蛍光が生じるので,リアルタイムでのバイオイメージング応用研究が進められている。近年,発光材料としての魅力が一層高まる発見があった。
SWCNTsの発光は,剛直な構造に起因してStokes shiftが小さいために,第二バンド間遷移(E22)に対応する可視光で励起する必要がある。ところが,化学修飾して官能基化する(SWCNTs付加体)と局所的にバンドギャップの小さい準位(量子欠損)が形成されて,E11発光よりも長波長域で発光する1)。したがって,近赤外光(E11)でも励起でき,加えて適切な化学修飾率ではその発光効率が著しく高くなるので,使い勝手が大きく向上する。
筆者らのグルーブでは,反応試薬の立体効果,電子的効果,反応点の数と位置関係などを利用することで,980 nmにE11発光を有する(6,5)SWCNTsから1100~1320 nmの範囲に近赤外蛍光を発現させることに成功した2)。1300 nmを超える近赤外光は,光通信にも活用ができる。近年,室温で単一光子を発生させる光源としてSWCNTsが機能することが見いだされており,光通信用の新たな近赤外発光素子としての活用も期待される3)。SWCNTsのバンド構造は,SWCNTsの骨格構造(カイラリティ)に依存するが,昨今の分離精製法の進展によりSWCNTs付加体のカイラリティ分離が可能であり,励起波長の選択肢も拡張されている2, 4)。化学修飾で発光波長を制御する機構の解明には,SWCNTs付加体のモデル分子の理論計算が有効で,実験化学と理論化学のインタープレイは欠かせない5)

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1) S. Ghosh et al., Science 2010, 330, 1656.
2) Y. Maeda et al., Commun. Chem. 2023, 6, 159.
3) T. Endo et al., Appl. Phys. Lett. 2015, 106, 113106.
4) Y. Maeda et al., Chem. Commun. 2023, 59, 11648.
5) Y. Maeda et al., Chem. Commun. 202359,14497.

前田 優 東京学芸大学教育学部自然科学系