トロンボポエチン(TPO)は造血幹細胞を血小板へ分化誘導するサイトカインとして知られるが,造血幹細胞自身の維持・増殖にも深く関与しており,血球分化の司令塔とも言えるサイトカインである。筆者らは,海洋生物から新しい造血因子を見いだすべく,約900種の抽出物を対象に探索したところ,ミクロネシア産カイメンの水抽出物から分子量14 kDaの新規タンパク質トロンボコルチシン(ThC)を分離することに成功した1)。ThCはホモダイマーを形成し分子内に2ヵ所の糖結合部位を持つレクチンであるが,TPOとの類似性はない。では,ThCはどのようにTPO受容体を活性化するのだろうか? "ThCはTPO受容体の糖鎖に結合し受容体の活性化を引き起こす"と仮定し研究を進めたところ,TPO受容体N型糖鎖の1つにThCが結合することで受容体との活性複合体を形成するという新しい機構の存在が明らかになった2)。興味深いことに,TPO受容体に由来する血液疾患においても内因性の変異タンパク質による糖鎖を介した活性化が提唱されていたが,分子レベルでの詳細は未解明である。ThCを用いることで糖鎖を介したTPO受容体活性化のより詳細な理解につながると期待できる。
なぜカイメンにこのような活性を持つ物質が含まれるのか? ThCはその構造から,カイメンに共生するバクテリア由来の産物である可能性が高いと考えるが,カイメン抽出物中におけるThCの含有量は決して少なくない。したがって,ThCはカイメン-バクテリア間の共生関係の成立・維持において何かしらの機能を担っているのではと想像している。
1) H. Watari et al., Nat. Commun. 2022, 13, 7262.
2) H. Watari et al., Comp. Biochem. Physiol. Part C 2019, 221, 82.
辺 浩美 北海道大学大学院水産科学研究院