超分子硫黄含有ポリマー
Supramolecular Sulfur-containg Polymers
硫黄は年間700万トン地上投棄されており，持続可能な開発目標の観点から有効利用が求められている。その方法の1つとして，硫黄ポリマーを用いた材料作製が注目されている。硫黄ポリマーは硫黄を加熱するという簡便な方法で得られるが，室温で解重合が起こる不安定さ，汎用有機溶媒へ溶解しないという加工性の悪さなどの問題がある1）。この問題解決のために，硫黄とビニルモノマーとの共重合法や，多官能性ビニルモノマーを用いた逆加硫法など様々な手法が開発されている2）。逆加硫法は硫黄ポリマー間を有機化合物で架橋した構造の硫黄含有ポリマーを与えることから，高静電容量や高屈折率などの優れた性質を持った硫黄含有ポリマー材料を創製できる手法として近年特に注目を集めている3）。
筆者らは上述したこれまでの共重合や架橋（逆加硫法）などの従来法とは異なる，超分子科学的手法により硫黄含有ポリマーを合成した（超分子硫黄含有ポリマー）4～7）。超分子科学的な連結ユニットを硫黄含有ポリマーへ導入することで，硫黄からなるポリマーの不安定や低加工性等の課題を克服するとともに，ケミカルリサイクル性を付与することに成功した。硫黄を原料としたポリマーの新規合成法の確立とさらなる物性理解が進み，高分子材料における新たな世界が切り開かれていくことを期待したい。
1） R. F. Bacon et al., J. Am. Chem. Soc. 1943, 65, 639.
2） J. Pyun et al., Polym. Chem. 2019, 10, 4078.
3） Y.-E. Sung et al., Nat. Chem. 2013, 35, 518.
4） Y. Kobayashi, A. Harada, H. Yamaguchi, Chem. Commun. 2020, 56, 13619.
5） Y. Yamagishi, Y. Kobayashi, H. Yamaguchi et al., ChemistrySelect. 2022, 7, e202103991.
6） Y. Kobayashi, H. Yamaguchi et al., Polym. Chem. 2023, 56, 13619.
7） Y. Kobayashi, H. Yamaguchi et al., J. Sulfur Chem. 2023, 44, 406.
小林裕一郎・山口浩靖 大阪大学大学院理学研究科