日本化学会

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塗布単結晶化可能な高移動度有機半導体のための分子技術

Molecular Technology towards Solution-processed Organic Single-crystalline Semiconductors with High Mobility

π電子系が分子間力により集合した有機半導体は,塗布法によって成膜でき,軽量性,柔軟性に優れるなどの特長から,次世代エレクトロニクスへの応用が期待されている。筆者らは,バンド伝導理論に立脚した独創的な有機半導体の分子技術を世界にさきがけて展開してきた。具体的には,1)分子間の軌道の重なりの増大と分子間振動の抑制,2)二次元伝導に有利な集合体構造を指向した分子群の設計・合成である。これらにより,高移動度と外的ストレス耐性を示す正孔輸送性(p型)および電子輸送性(n型)有機半導体を開発した1~3)。併せて,塗布結晶化法も開発し,有機半導体単結晶ウェハを実現した。
有機半導体のキャリア伝導にとって分子間の軌道の重なりは重要であるが,これまではフロンティア軌道間の重なりだけが注目されていた。ごく最近,筆者らは,フロンティア軌道にエネルギー的に隣接する分子軌道もキャリア伝導に寄与し,これらの分子軌道も考慮して分子設計することが有機半導体の移動度向上に有用であることを明らかにした4)。筆者らの研究を含め,高性能有機半導体の開発がさらに発展することで,安価で環境に優しいIoT向けRF-IDタグや多目的センサなど,ハイエンドデバイスの研究開発が加速することが期待される。

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1) T. Okamoto et al., J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 9083.
2) T. Okamoto et al., Sci. Adv. 2020, 6, eaaz0632.
3) T. Okamoto et al., Acc. Chem. Res. 2022, 55, 660.
4) T. Okamoto et al., J. Am. Chem. Soc. 2022, 144, 11159.

岡本敏宏 東京工業大学物質理工学院