カーボンニュートラルなバイオマス由来化合物から有用化学品への分子変換を促進させる触媒技術は,化石資源に依存しない循環型の化学品製造プロセスの開発に必要不可欠である。中でもカルボン酸誘導体は,天然に豊富に存在する油脂あるいは糖類から誘導可能な炭素資源として近年注目されている。
筆者らは最近,白金ナノ粒子(Pt)とモリブデン酸化物(MoOx)を酸化物上に担持した固体触媒を開発し,この触媒が1~5気圧の水素圧,100度の温和な反応条件下で,様々なエステルを対応する非対称エーテルへ高選択的に還元できることを見いだした1)。また,バイオマス由来の脂肪酸エステル(バイオディーゼルやトリグリセリド)を対応するエーテルへと効率的に変換するなど,これまでの合成法では困難であった様々な非対称エーテルの合成を可能にした。さらに,本触媒系はバイオマス由来高級脂肪酸を含む,幅広いカルボン酸の還元的アミノ化反応にも適用可能であり,多様なアルキルアミンを高収率で得ることに成功した2)。
この優れた触媒活性は,白金ナノ粒子と酸素欠陥を有するモリブデン酸化物種が,それぞれ水素とカルボン酸誘導体を活性化する「協奏的触媒作用」に起因することを明らかにした。本研究成果は,カルボン酸誘導体の高効率変換における白金-モリブデン酸化物触媒の有効性を実証するものであり,次世代の化学プロセスの開発に貢献するものである。
1) S. Yamaguchi et al., JACS Au 2022, 2, 665.
2) S. Yamaguchi et al., Green. Chem. 2024. doi:10.1039/D3GC02155F
山口 渉 大阪大学大学院基礎工学研究科