世界のエネルギー利用に変革が起きている。アンモニア(NH3)は水素(H2)エネルギーキャリアかつ,二酸化炭素(CO2)を排出しないカーボンフリーな石油代替燃料として導入が進められている1, 2)。しかし,燃料NH3の問題点として,難燃性であり燃焼速度が遅い。加えて,熱力学的にはN2生成が有利であるが,速度的には窒素酸化物(N2O/NOx)生成が有利であるため,有害ガスの排出を引き起こす。燃料NH3の汎用性を高めるためには,燃焼生成物が窒素(N2)と水(H2O)のみであることならびに燃焼開始温度の低下が求められる。
筆者らは,燃料NH3の問題の解決に寄与するNH3燃焼触媒の研究開発に取り組み3),酸化銅(CuOx)を担体に担持した触媒が,高活性・高N2選択性・高耐熱性を示すことを報告した。NH3触媒燃焼の初期の反応はCuOxの格子酸素とNH3の反応で進行するMars-van Krevelen(MvK)機構であること明らかにした。速度的に副生が回避できなかったNOxについては,NH3-NOx反応に活性なCu2+が有効に働き,CuOxの還元性に関わるMvK機構との二律背反が見受けられた。
一方,N2Oの副生については,触媒上にNH3の解離吸着種(NH, imide)が生成の要因であると推察され,in-situ FT-IRによる吸着種の同定により裏付けされた。NH3燃焼反応雰囲気下の触媒の局所構造をCu K-edge operando XAFSにより,CuOx系触媒の強固な構造ならびに耐久性も確認し,現在も開発を進めている。
今後もNH3に関連する研究開発を進め,環境・エネルギー問題解決に貢献したい。
1) J. Guo, P. Chen, Chem 2017, 3, 709.
2) A. Valera-Medina et al., Energy Fuels 2021, 35, 6964.
3) S. Hinokuma et al., Chem. Lett. 2021, 50, 752.
日隈聡士 産業技術総合研究所