高分子鎖と溶媒・イオンからなるnmスケールの厚さの境界領域は「ソフト界面」と呼ばれる。ソフト界面の分子設計は,生体分子や細胞との相互作用制御において重要な役割を担う。高分子の精密重合法の発展に伴い,高密度ポリマーブラシやブロック共重合体によるナノ相分離表面などの精緻に構造制御されたソフト界面も設計可能となった。こうした界面のnmスケールの物理的・化学的構造の制御は,界面機能発現のメカニズム解明や応用に向けた構造-機能相関の解析において極めて有用である1)。
筆者らは,高分子の表面開始型原子移動ラジカル重合により,膜厚・グラフト密度を系統的に制御したカチオン性ポリマーブラシを合成し,殺菌性評価と相互作用解析を行った。界面のグラフト構造とバクテリアとの相互作用の関係が解析できれば,殺菌性に関わる要素を明らかにすることにつながると考えられる。高密度なポリマーブラシにおいて,低密度なポリマーブラシよりも高い殺菌性が観察された。さらに,エネルギー散逸型水晶振動子マイクロバランス(QCM-D)を用いて吸着状態を評価した。エネルギー散逸と周波数変化の関係から高密度なポリマーブラシでは,低密度なポリマーブラシに比較してバクテリア培養初期に強く相互作用することが示され,殺菌性が高くなる要因であることが考えられた(図1)2)。
近年では,Tangらの総説にまとめられているようにポリマーブラシに対する計算科学・情報科学の活用も進展してきた3)。最近,筆者らもポリマーブラシをモデル界面とする機械学習モデリングを実際に開始しており,精密合成との相乗的な研究の進展が期待される。
1) T. Masuda, M. Takai, J. Mater. Chem. B 2022, 10, 1473.
2) T. Masuda et al., Langmuir 2023, 39, 16522.
3) Y. Tang et al., Langmuir 2024, 40, 1487.
増田 造 東京大学大学院工学系研究科