不対電子を有する化学種である有機ラジカルは,一般に非発光性物質あるいは光分解する物質として知られてきた。最近になり,光安定な発光ラジカルが様々に開発され,新たな分子性発光体として注目を集めている。一般の分子が閉殻電子構造を有し,一重項励起状態からの蛍光あるいは三重項励起状態からのりん光を示す一方で,二重項基底状態にあるラジカルでは,二重項励起状態からの蛍光が期待できる。この特徴的な発光ダイナミクスに基づき,ELにおける高効率な電子→光子変換,重原子効果を受けないなど,ラジカルならではの光機能が様々に開拓されつつある1)。
筆者らのグループは,ラジカルをドープした分子結晶,ラジカル配位子からなる配位高分子,またジラジカルを単分散させたポリマー等,発光ラジカルが互いに弱く相互作用している物質系において,磁場応答発光(Magnetoluminescence, MagLum)が発現することを明らかにした(図1)。加えて,基底状態において2つのラジカル(部位)間に働くスピン間相互作用が生み出すスピン自由度が,MagLum発現の鍵であることを見いだした2)。
以上の研究成果について,2024年春にOIT梅田タワーセミナー室で開催された生産技術・製品開発ディビジョン勉強会で発表し,産学両方の参加者から様々な貴重な意見を頂戴した。
ジラジカルの化学構造およびジラジカルドープPMMAポリマー(0.1 wt%)の4.2 KにおけるMagLum
1) A. Mizuno, R. Matsuoka, T. Mibu, T. Kusamoto, Chem. Rev. 2024, 124, 1034.
2) R. Matsuoka, S. Kimura, T. Miura, T. Ikoma, T. Kusamoto, J. Am. Chem. Soc. 2023, 145, 13615.
草本哲郎 大阪大学大学院基礎工学研究科