近年,リチウムイオン二次電池(LIB)の正極活物質として,希少金属を使用しない材料の開発が望まれている。テトラチアフルバレン(TTF)は理論容量や酸化還元電位の点で優れた物質であるが,電解液に対する溶解性の高さに起因するサイクル特性の低さが欠点とされている。
筆者らは,周辺部にアリール基を有するTTF類を合成し,その構造や性質の解明に取り組んでいる。その中で,最近,トリフェニルアミン(TPA)部位を有するTTF類縁体(TTF-4TPA)が,充放電プロセス中に電池内で重合し,サイクル特性を大幅に改善できることを見いだした。
TTF-4TPAは,パラジウム触媒を用いたTTFのアリール化反応によって合成した。TTF-4TPAを正極活物質とするLIBの充放電特性を評価したところ,100サイクル後も約85%の容量を維持することができた(図1)。また,TTF-4TPAは初回充電中に重合反応がほぼ完結していることが示唆された1)。現在,より高い容量を示す分子の開発に取り組んでいる2)。以上の研究成果について,2024年春に大阪工業大学(OIT梅田タワー)で開催された生産技術・製品開発ディビジョン勉強会で発表し,産学両方の参加者から様々な貴重な意見を頂戴した。
1) A. Yoshimura et al., ACS Appl. Mater. Interfaces 2022, 14, 35978.
2) A. Yoshimura et al., New J. Chem. 2023, 47, 11760.
吉村 彩 愛媛大学大学院理工学研究科