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光レドックスカスケード触媒によるセルロース酸化・太陽光水素生成

Photoredox Cascade Catalyst for Cellulose Oxdiation and Solar Hydrogen Production

バイオマスは持続利用可能なカーボンニュートラル炭素資源であり,化石資源の代替候補として有望視されている。例えば,木質バイオマスに最も多く含まれるセルロースを単量体レベルに分解できれば,様々な化成品が合成可能になるが,水素結合で高度に安定化されたポリマー集積構造を,いかに効率良く分解するかが難題となる。従来の強酸・強アルカリを利用した加水分解は環境負荷が大きく,反応速度や選択性等に難点を抱える。活性炭を固体触媒として利用した加水分解法は1),80%を超える高いグルコース収率を達成し,多くの注目を集めているが,180℃の高温が必要となる。環境調和型プロセスとして半導体ナノ粒子光触媒を利用した光反応も報告されたが2),光触媒がセルロース表面に直接接触する必要があり,低い反応効率が課題であった。最近,Pt担持TiO2ナノ粒子にRu色素を複層化した色素増感系において,TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル)分子触媒を介することでセルロースの表面水酸基を酸化しつつ,水素を生成する光触媒系が報告された3)。担持するRu色素の組み合わせにより活性が制御可能なことや,酸化されたセルロースがナノファイバーとして活用可能な点を踏まえると,バイオマスの利活用とグリーン水素供給の両面からカーボンニュートラル社会に貢献する手法として期待される。

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1) H. Kobayashi et al., ACS Catal. 2013, 3, 581.
2) D. W. Wakerley et al., Nat. Energy 2017, 2, 17021.
3) A. Kobayashi, Angew. Chem., Int. Ed. 2023, 62, e202313014.

小林厚志 北海道大学大学院理学研究院