日本化学会

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脳移行性を示す神経変性タンパク質分解薬

Brain-permeable Degraders for Neurodegenerative Proteins

近年,標的タンパク質分解薬PROTAC(proteolysis targeting chimera)が注目されている。PROTACは,ユビキチンリガーゼと標的タンパク質に対するそれぞれのリガンドをリンカーを介して連結した分子であり,ユビキチン-プロテアソーム系を介して標的タンパク質を分解する。筆者らは,神経変性タンパク質を分解する初の低分子PROTACを報告した1)。PROTAC 1は,ユビキチンリガーゼの一種IAP(inhibitor of apoptosis protein)のリガンドと,変性・凝集した神経変性タンパク質の特徴的構造である連続したβシートを特異的に認識する神経変性疾患診断薬を連結した低分子であり,ハンチントン病の原因タンパク質を生細胞内で分解し,その凝集体量も減少させた。
神経変性疾患治療薬は,脳で作用する必要がある。そこで1の脳移行性向上を目指し,分子量や水素結合受容体・供与体数などの物理化学的性質を改善すべく,IAPリガンドを疎水性タグに置換したPROTAC類縁体2を設計・合成した。疎水性タグ連結分子は,変性タンパク質を認識・分解するタンパク質品質管理機構を介して,標的タンパク質を分解すると考えられている。分解薬2は,ハンチントン病原因タンパク質とその凝集体を減少させ,マウス脳移行性を示した2)。比較的分子量が大きい標的タンパク質分解薬が脳移行性を示した結果は,特筆すべき成果と考えている。

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1) S. Tomoshige et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2017, 56, 11530.
2) K. Hirai et al., ACS Med. Chem. Lett. 2022, 13, 396.

石川 稔  東北大学大学院生命科学研究科