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液体洗剤におけるα-スルホ脂肪酸エステル塩(MES)の洗浄特性

Cleansing Characteristics of α-Sulfo Fatty Acid Methyl Ester Salts(MES)in Liquid Detergents

α-スルホ脂肪酸エステル塩型界面活性剤は,植物油脂資源から誘導されるアニオン性界面活性剤であり,市場ではほとんどの場合,側鎖にメチルエステル基を有したMES(Methyl Ester Sulfonate)が流通している。これまで,衣料用粉末洗剤には,主に石油資源に由来するものが利用されてきたが,近年の製品開発では,原料調達から生活者の使用・廃棄までの全ライフサイクルを考慮に入れたLCA(ライフサイクルアセスメント)により,地球環境に優しい製品設計が最重要視点の1つとなっている。そこで,界面活性剤の原料として生産効率が高く,かつ再生可能なパーム油を原料とするMESが注目を集めている1)。しかし,MESはパーム油を原料とするため,クラフト温度が高く低温で析出するなど液体洗剤への展開には制限があり,液体洗剤を想定した条件下において,その特性は十分に理解されていなかった。
近年,液体洗剤で汎用に使用されるアルカノールアミンや低分子芳香族スルホン酸の組み合わせによりクラフト点の大幅な低下が見いだされた2)ため,液体洗剤を想定した中性条件下での洗浄特性が調査された。その結果,MESは皮脂汚れに対して効率的に吸着し,柔らかい油水界面を形成することで速やかにローリングアップを進行させ,高い洗浄力を示すことが明らかになった。
油脂戦略の視点からも,日用品で汎用な界面活性剤がラウリン酸やミリスチン酸由来のことが多いことを鑑みると,MESはそれらと競合しない点でも環境に優しいと言え,今後,このようなサステナブル社会の実現と生活者ニーズの両方を満たす洗浄技術の開発はさらに加速するものと考えられる。また,MESの構造上の特長であるメチルエステル基を伸長すれば特異な物性を示すことも知られており3),生活者のより良い習慣づくりに資する新たな機能の発見が期待される。


1) P. Siwayanan, Z. H. Ban, X. Zhang, A. Parthinban, J. Surfact. Deterg. 2021, 24, 385.
2) 森垣篤典ら,特許6257090号.
3) 藤原正美ら,表面1995, 33, 65.

森垣篤典  ライオン株式会社