日本化学会

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光活性化型の細胞付着表面

Photoactivatable Cell Anchoring Surfaces

生体内では,多種類の細胞が相互作用している。このような相互作用を培養皿の上で精巧に再現するには,複数種類の細胞を精緻に配置する技術が必要である。筆者らは,これまでに細胞の基材への付着を光で制御できる光応答性の細胞付着剤を報告してきた1)。これらの材料は,細胞の付着を抑制するポリエチレングリコール(PEG)と,細胞膜と付着する脂質が連結したPEG脂質を基本骨格とし,基材表面への修飾によって,細胞が脂質部分と作用して付着する表面が構築できる。今回,光照射によって脂質が2本から1本に変化するPEG脂質を修飾したところ,光照射に応じて細胞を付着できる光活性化型細胞付着表面が開発できた2)。AFMを用いて調べたところ,光照射前は修飾分子同士が表面上で凝集体を形成し,光照射によって凝集が解消される様子が観察され,脂質の細胞表層へのアクセスが疎水性凝集によって制御されている機構が明らかとなった。この表面を用いて,がん細胞と免疫細胞とを1つずつ隣接するように光で配置し,両者の相互作用を観察したところ,免疫細胞によるがん細胞傷害の不均一性を観察できた2)。また,任意の細胞結合分子を光照射位置にだけ提示できる全く異なる光活性化型細胞付着表面も開発しており3),今後,これらの表面を用いた細胞間相互作用の1細胞解析が,医療分野の様々な課題解決へと応用できると期待される。

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1) S. Yamaguchi et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2012, 3, 690.
2) S. Yamahira et al., J. Am. Chem. Soc. 2022, 144, 13154.
3) T. Kosaka et al., J. Am. Chem. Soc. 2022, 144, 17980.

山口哲志 大阪大学産業科学研究所