エステル交換反応に代表される交換反応は,重縮合やグリコリシスなど,ポリマー業界において広く用いられてきた。最近では,分子網目内で交換反応が起こる機能性架橋ポリマーが開発されており,これらはビトリマー(vitrimer)と総称されている1)。結合交換が活性化される高温域では,分子鎖が架橋の束縛から一時的に解放され,リサイクル・修復性などのサスティナブル性を発現する2)。
筆者らは,結合交換コンセプトの派生として,リニアポリマー分子間での結合交換により,ソフトな熱可塑性ポリマーからハードな架橋ポリマーに自己変換可能な,物性可変型ポリマーを設計した3)。分子設計はごくシンプルであり,水酸基含有の線状ポリエステルを合成し,一定温度以上で加熱すると分子間エステル交換により架橋が形成されていくというものである。ポリマーの合成段階でエステル交換触媒を含有させているため,後の変換は,ただ加熱するだけでシームレスに進行する。なお,架橋形成時に水酸基が消費されるわけではなく,交換反応により再生するため,最終硬化物はエステル交換型ビトリマーとして振る舞い,サスティナブル性を発現する。本コンセプトは,「ポリマー合成後は物性を変えることができない」という常識および従来明確に分類されていた熱可塑性ポリマー/架橋(熱硬化性)ポリマーの垣根を壊す第三の設計(自己硬化型熱可塑性ポリマー)として,ポリマー機能化法に新しい潮流を導くと期待している。
1) L. Leibler et al., Science 2011, 334, 965.
2) M. Hayashi et al., J. Mater. Chem. A 2022, 34, 17406.
3) M. Hayashi et al., Macromol. Rapid Commun. 2024, 45, 2400125.
林 幹大 名古屋工業大学大学院工学研究科