日本化学会

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2成分有機結晶の顕著な発光変化

Remarkable Luminescence Change of Two-Component Organic Crystals

光照射すると発光する有機結晶に対し,「こする」などの機械的刺激を加えると,非晶質化や別の結晶多形への相転移が起こり,発光色が変わることがある1)。発光特性の異なる2種類の分子を用いて作製した薄膜が,機械的刺激の付与により発光色を大きく変えた例などは報告されているが2),機械的刺激に応答する2成分有機発光結晶の研究は未開拓である。
筆者らは,2種類の発光性分子を用いて相分離結晶や混晶を創製し,機械的刺激付与時の発光波長変化量を単一分子結晶と比べて拡大することに成功している。ピレン誘導体とキナクリドン誘導体から調製した相分離結晶では,ピレン誘導体のみからの紫色発光が観測されたが,こすって非晶質化するとキナクリドン誘導体からの橙色発光が顕著になり,発光波長が大きく長波長化(約200 nm)した3)。同設計をほかの組合せに展開し,340 nmもの発光波長変化も実現している4)。一方,チオフェン環が1つ置換したベンゾチアジアゾール誘導体に微量の2置換体を加えると,1置換体から2置換体へのエネルギー移動が起こり,黄色に発光した5)。この混晶をこすって非晶質化すると,1置換体による青緑色発光が観測された。
これらの手法は,機械的刺激に応答する有機発光結晶の合理的な設計法として有用であり,高感度圧力センサーなどの開発に繋がることが期待される。

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1) S. Ito, Chem. Lett. 2021, 50, 649.
2) H.-J. Kim et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2015, 54, 4330.
3) M. Ikeya et al., Chem. Commun. 2019, 55, 12296.
4) S. Ito et al., Chem. Eur. J. 2021, 27, 13982.
5) R. Yoshida et al., Chem. Commun. 2022, 58, 6781.

伊藤 傑  横浜国立大学大学院工学研究院