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磁気円偏光発光と磁気円偏光電界発光

Magnetic Circularly Polarized Luminescence and Electro-Luminescence

円偏光発光(CPL)は,光学活性な物質に自然光を照射して生じた光励起状態から,右あるいは左回りに回転する円偏光のどちらかをより多く発する現象である。CPLは外部磁場の印加でも生じ,これを磁気円偏光発光(Magnetic circularly polarized luminescence : MCPL)という1)。その大きな特徴は,光学不活性な発光体からもCPLを取り出せる点である。筆者らは,ペロブスカイト量子ドット(PQDs, CsPbX3 : X=Cl, Br, I))に外部から磁力を加えながら光励起したところ,光学不活性であるにもかかわらずCPLが生じることを見いだした。また,PQDsの組成によりCPLの色調を青から赤まで300 nm以上の波長幅で変化させること,さらには磁力の方向の変化によりCPLの回転方向も反転させることに成功した2)。また,近赤外領域に発光を示すPQDs(Cs5(MA0.17FA0.8395Pb(I0.83Br0.173)を発光層に用いた近赤外発光ダイオードに,磁力を加えながら電圧を印加したところ(図1左),すべて光学不活性な構成材料であるにもかかわらず,3.3×10-3 T-1の異方性因子をもつ磁場誘起の近赤外円偏光電界発光(Near-infrared magnetic circularly polarized electroluminescence : NIR-MCPEL)の観測に成功した(図1右,N-up : 発光面がS極)。上記と同様に磁力方向の変化で,CPELの回転方向も反転することができた3)。これらの結果は,光学不活性なPQDsを用いたマルチカラーCPLおよびCPELの可逆的な取り出しが可能であることを示しており,円偏光利用機器への応用が期待される。

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1) C. K. Luk et al., Chem. Phys. Lett. 1975, 34, 147.
2) Y. Imai et al., Eur. J. Inorg. Chem., 2024, e202300621.
3) Y. Imai et al., Magnetochemistry 2024, 10, 39.

今井喜胤 近畿大学理工学部