自然界のDNAやタンパクは,柔軟な分子フラグメントが弱い会合力の協奏作用によって集合し,高次構造の形成とその機能が発現している。近年,自然界の自己集合の仕組みをモノづくりに取り入れた,自己集合性化合物の研究が精力的に行われている。その中で筆者らは,剛直な構造をもつ金属錯体と柔軟な骨格をもつ環状有機分子が弱い会合力の協奏作用によって複合化した分子集合体に注目し,その特異な集合構造と機能解明を行ってきた1~3)。
カチオン性錯体と水酸基を多数もつ環状有機分子を有機溶媒中で混合すると,錯体の周りを環状有機分子が覆い囲った分子集合体が形成する1)。この集合構造は,水素結合・カチオン-π・静電相互作用など,弱い会合力の協奏作用によって安定化されている。会合力のバランスは形成条件によって変化するため,集合構造も柔軟に変化する。例えば最近,分子自己集合では形成させることが困難なC1対称の分子集合体を形成可能であることを見いだした2)。図1に示すIr錯体が錯体内包型の集合構造を形成することで,金属種が低対称化し,円偏光発光の異方性因子glumが向上した。また,結晶化によって集合化させると分子性結晶が得られ,溶液中とは異なる集合構造を形成することも明らかにした。用いる分子フラグメントは古典的なものであっても,複数の弱い会合力を活用することで,新奇な構造と機能をもつ分子集合体が創出可能になると考えられる3)。
図1 低対称構造をもつ錯体内包型分子集合体の形成とキラルな光物性変化
1) S. Horiuchi et al., Dalton Trans. 2020, 49, 8472.
2) S. Horiuchi et al., Nat. Commun. 2023, 14, 155.
3) S. Horiuchi et al., Dalton Trans. 2023, 52, 6604.
堀内新之介 東京大学大学院総合文化研究科