リチウムイオン電池と比較して,資源的優位性があるナトリウムイオン電池の開発が進んでいるが,ナトリウム金属電池は安全性の観点からハードルが高い。しかし,ナトリウム金属電池は定地用電源のNa-S電池としてすでに実用化されている1)。Na-S電池はナトリウムイオン伝導体であるβ-アルミナ固体電解質で負極室と正極室を分け,液体ナトリウム金属負極と液体硫黄(液体多硫化ナトリウム)正極との組み合わせで作動させる。両活物質が反応しやすい状態を維持するため,液体となる300℃程度の高温で作動するが,充放電メカニズムが単純であり,長期間の使用に耐える。
Na-S電池の低温化については,材料の選定範囲が広くなり,長寿命化が見込まれるため,学術的な検討がなされている。筆者らは熱的に安定なイオン液体を用いたナトリウムイオン電池の開発を進める中で2),Na-S電池の低温化にも取り組み始め,150℃という正極活物質が固体状態の条件においても,Na[N(SO2CF3)2]-Cs[N(SO2CF3)2]無機イオン液体(Inorg IL)を正極室に導入することで,反応界面が維持され,1000回に及ぶ長期サイクルを達成した3)。
また,ナトリウム金属負極の金属析出溶解挙動を融点(98℃)付近の液体と固体で比較するにより,固体の場合に起こるデンドライト析出が液体の場合には起きず,反応界面形成も良好であることを見いだした4)。今後,液体金属負極を用いた二次電池の開発が期待される。
1) 玉越富夫,伊藤良幸,電気化学 2023, 91, 300.
2) K. Matsumoto et al., Energy & Environ. Sci. 2019, 12, 3247.
3) D. Wang et al., Adv. Funct. Mater. 2021, 31, 2105524.
4) J. Qiu et al., J. Power Sources 2024, 612, 234777.
松本一彦 京都大学大学院エネルギー科学研究科