複合酸化物の酸素欠陥は完全酸化や水性ガスシフト反応などにおいて触媒活性点として機能するとされる。一方,酸素欠陥の触媒作用について,詳細な理解は得られていない。固体触媒は一般に組成や構造が不均質であるため,酸素欠陥部位の特定やその電子状態の解明が困難なためである。この点について,筆者らは組成・構造が均質かつ優れた触媒性能を有する結晶性複合酸化物触媒を用いることで,結晶構造中に生成される酸素欠陥部位を解明し,その電子状態や触媒作用を明らかにした1, 2)。
代表的な研究成果として,結晶性Mo3VOx触媒(MoVO)およびH1.0(HPy)0.8[PMo12O37.7]触媒(PyPMo)の酸化触媒作用を紹介する。エタンやアクロレイン酸化反応に高活性なMoVOは,結晶構造中のミクロ細孔に面する格子酸素が欠陥を形成する。欠陥近傍のMo上には2つの電子が局在し,分子酸素を導入すると酸素への電子移行が生じて親電子性のペルオキソが形成される。この種がこれらの反応の触媒活性種として機能する(図1)。メタクロレイン酸化反応に高活性なPyPMoは,構造中のKeggin型リンモリブデン酸同士が近接しており,隣接間には酸素欠陥が形成される。欠陥近傍のMo上には2つの電子が局在し,分子酸素を導入すると,酸素へ電子移行が生じてペルオキソが形成される。この場合も,この種が触媒活性種として機能する。以上のように,組成・構造が均質かつ高活性な結晶性複合酸化物触媒を用いることで,酸素欠陥で生じる酸化触媒作用を解明できた。
図1 MoVOの酸化触媒作用
1) S. Ishikawa et al., ACS. Catal. 2023, 13, 15526.
2) S. Ishikawa et al., J. Am. Chem. Soc. 2022, 144, 7693.
石川理史 東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所