日本化学会

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水熱炭素化-テンプレート法を利用した多孔質カーボン材料の合成

Porous Carbons via a Combined Hydrothermal Carbonization and Templating Approach

多孔質カーボン材料は,吸着材や触媒担体として需要があるほか,近年,電極材料としてエネルギー分野の発展に大きく貢献している。これらの応用分野における材料の性能向上には,カーボン固体内の細孔の大きさ,形,配列といった細孔形態の制御が重要であり,したがって,多孔質カーボン材料の細孔形態を自在に制御できる方法論の開発が求められる。
筆者らは,糖を原料とした水熱プロセスによるカーボン材料合成技術(本稿では,本技術を水熱炭素化法と呼ぶ)に1),テンプレート法を導入することを通して,細孔の形態が制御された多孔質カーボン材料の合成を達成した(ここでは,本手法を水熱炭素化-テンプレート法と呼ぶ)。合成例の1つとして,果糖をカーボン源とし,ポリスチレンラテックス粒子と両親媒性ブロック共重合体をテンプレートとして用いた水熱合成が挙げられる2)。水熱プロセスの後には,ナノ構造化された果糖由来カーボンと上記2種のテンプレートからなる複合体が得られる(図中:合成例A)。本複合体を不活性雰囲気下で焼成すると,テンプレートが熱分解され,球状のナノ細孔が緻密に配置された多孔質カーボン材料が得られた。
本水熱炭素化-テンプレート法によれば,水熱条件として,例えば,水熱温度2)やテンプレート濃度3)を変化させることで,細孔の配置や大きさを比較的容易に制御することができる。これは,水熱条件が,水熱環境下におけるテンプレートの界面形成や組織構造形成挙動を左右することを示唆しており,こうした材料合成手法としての優れた柔軟性は,水熱プロセス独自の特長である。
上述のカーボン-テンプレート複合体を,900℃で焼成して得られる多孔質カーボン材料は,約50~60 nmで均一な大きさの球状細孔を有し,電極触媒の担体として電気化学反応に応用した際に優れた機能を発揮した4)。今後水熱プロセスの特長をさらに活用し,これまでにない新しい形態の細孔や機能をもった新規な多孔質カーボン材料の開発が期待される。

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1) 例えば,Q. Wang, H. Li, L. Chen, X. Huang, Carbon 2001, 39, 2211.
2) S. Kubo, R. J. White, K. Tauer, M.-M. Titirici, Chem. Mater. 2013, 25, 4781.
3) S. Kubo, Mater. Adv. 2021, 2, 4029.
4) S. Kubo, A. Endo, S. Yamazaki, J. Mater. Chem. A 2018, 6, 20044.

久保史織 国立研究開発法人産業技術総合研究所 化学プロセス研究部門