アニオン性の分子状金属酸化物であるポリオキソメタレート(POM)は,分子構造,組成,酸化数等に応じた多様な反応性や光物性を示す。POMはその光励起種が高い反応性を持つため,光触媒として機能し,光励起種による水素原子移動(HAT)や一電子移動(SET)を経て様々な有機化合物の変換反応に利用されている1)。一般にHOMO-LUMO間の大きなエネルギーギャップのためPOMの光励起には紫外光が必要だが,筆者らはPOMに金属イオンや有機配位子を導入し,エネルギー準位を制御することで,可視光応答型光触媒を開発してきた1)。
今回,POMとポルフィリンを複合化することで高い活性と耐久性を両立する分子光触媒の開発に成功した2, 3)。ポルフィリンは強い可視光吸収特性を持ち,一重項酸素(1O2)を生成する光触媒として機能するが,1O2と自らも反応して分解してしまう。そこで筆者らは2つのポルフィリンを積層しPOMで固定させたところ,ポルフィリンのスタッキングとPOMの配位から生じる剛直な構造がポルフィリンの歪みを防ぎ,1O2による分解を抑制できることが判明した。POMの構成元素を変更すれば,重原子効果やLUMOのエネルギー準位が変わって緩和過程の制御が可能となり,1O2の生成効率の向上が期待できる。実際,この分子複合光触媒は様々な有機化合物の酸化反応に,優れた光触媒活性を示した。
今後,この手法を応用することで,色素分子の積層・集積構造とPOMの協奏作用を活用した光機能の開拓や光触媒の開発が期待される。
1) K. Suzuki et al., ACS Catal. 2018, 8, 10809.
2) M. Yamaguchi et al., J. Am. Chem. Soc. 2024, 146, 4549.
3) C. Li et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2021, 60, 6960.
鈴木康介 東京大学大学院工学系研究科