金属電極間の微小な間隙を単分子が架橋した構造体は単分子接合と呼ばれ,単分子の電気伝導を簡便に再現性良く計測できるプラットフォームとして用いられている。単分子の電気伝導度は分子の電子構造に強く依存し,そしてその電子構造は分子の化学構造に起源をもつ。したがって伝導度を基に分子の識別が可能になるものと期待されることから,筆者らは単分子接合の伝導度計測を分析化学へと展開し,新規単分子検出法を開発した。これまで,DNAと遺伝子変異1)やグルコース2)などの生体分子に対する単分子検出法を報告した。さらに最近では,リン酸化ペプチドの単分子検出法を開発した3)。本法では,リン酸基が電極を架橋した接合の伝導度を指標として検出を行うため(図1),試料分子の前処理は不要でありアミノ酸配列に対する制約もない。この利点に基づき,タンパク質リン酸化酵素によるリン酸化をその場で単分子感度にて追跡することにも成功した。
単分子の分析は感度の究極の向上をもたらすだけでなく,構造変化をはじめとした分子の動的挙動を直接捉えることができるなど,従来の分子集合体を対象とした分析では得られない情報をもたらし得る。単分子接合は構造安定性が低い欠点を有していたが,筆者らはその安定化にも成功しており4, 5),単分子接合は今後,単分子分析の有用な分析場として利用できるものと期待できる。
1) P. T. Bui et al., Chem. Commun. 2015, 51, 1666.
2) T. Nishino et al., Chem. Commun. 2017, 53, 5212.
3) T. Harashima et al., J. Am. Chem. Soc. 2022, 144, 17449.
4) T. Harashima et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2019, 58, 9109.
5) T. Harashima et al., Nat. Commun. 2021, 12, 5762.