日本化学会

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金属触媒によるエタノール合成

Ethanol Synthesis over Metal Catalysts

持続可能な社会を実現するために,CO2と再生可能エネルギー由来のH2を原料とした有用物質(CO,CH4,CH3OH,炭化水素類など)の合成手法が検討されている。近年では,エタノールを目的生成物とする触媒反応の検討が活発になってきた。出発炭素源をCO2とした場合,エタノール合成では,(1)CO2のC=O結合の解離と(2)C-Cのカップリングを同時に行う必要があり,難度の高い触媒反応である。そのため,エタノール合成反応機構を正確に理解し,新規触媒の設計・開発につなげていく必要がある。
 エタノール合成触媒では,担持金属種の原子分散やクラスター分散に着目したものが報告されている。BaiらはPd2Cu合金ナノ粒子を触媒にすることでエタノール合成を達成している1)。合金化によりPd単原子を触媒表面に形成させる手法を採用している。Zhengらは窒素ドープカーボンの一部をリンで置換したCNPという材料にRh単原子を埋め込んだ2)。この触媒では,エタノール選択率・CO2転化率が非常に高い値を示した。またLouらは,Pd2/CeO2触媒を報告している3)。CeO2上にPd2O4というPd二量体を形成させることが鍵であった。
 提案されている反応機構1~3)は以下のとおりである。まずCO2水素化により,CO(逆シフト反応)とメトキシ種(CH3O-,メタノール合成中間体)を生成する。次に,これらを活性金属上にてカップリングさせ,アセチル種(CH3CO-)を形成する。最後に,これを水素化することでエタノールを得る。金属種を担体上に分散させることにより,金属種と担体の相互作用が強まり,C-Cカップリングに適した活性サイトになると考えられている。金属触媒での触媒探索はまだ始まったばかりであり,今後の展開に期待したい。

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1) S. Bai et al., J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 6827.
2) K. Zheng et al., Appl. Catal. B 2024, 346, 123730.
3) Y. Lou et al., Appl. Catal. B 2021, 291, 120122.

多田昌平 北海道大学大学院工学研究院