ポリビニルアルコール(PVA)は接着剤や医用材料,偏光フィルムなどの幅広い用途に用いられるため,工業的に極めて重要な高分子材料である。PVAは通常,酢酸ビニルのラジカル重合とケン化反応によって合成されるが,この方法では分岐構造のない直鎖状の主鎖構造が生成する。一方で,筆者らはこれまでにアルケニルボロン酸誘導体をモノマーとする連鎖重合について研究してきた1)。アルケニルボロン酸誘導体はビニル基にホウ素が直接結合した構造を持ち,ラジカル重合とホウ素側鎖の重合後変換が可能で,通常では合成困難なポリマーの合成に有用である。最近,筆者らは有機反応の試薬として市販されるビニルボロン酸ピナコールエステル(VBpin)をモノマーとして採用し,ラジカル重合とホウ素側鎖の水酸基化による新しいPVA合成法を着想した。実際に実験を行ったところ,VBpinは重合中にバックバイティング型の連鎖移動を頻発し,主鎖に分岐構造を有するポリマーを与えることがわかった。続く水酸基化によって,分岐構造を持つPVAが簡便に得られた2)。このような分岐PVAの合成例はこれまでほとんど知られていなかった。酢酸ビニルから得られる直鎖PVAと比べると,分岐PVAでは結晶性が大きく低下しており,室温で水に速やかに溶解するなど,分岐構造に由来する特徴ある物性を示した。これらの性質は,今後の新しいPVA応用につながると期待される。
1) T. Nishikawa, Polym. J. 2024. doi:10.1038/s41428-024-00935-4
2) T. Kanazawa, T. Nishikawa, M. Ouchi, Macromolecules. 2024, 57, 6750.
西川 剛 京都大学大学院工学研究科