日本化学会

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金属-有機構造体(MOF)におけるCorrelated Disorder

Correlated Disorder in Metal-Organic Frameworks

MOFは,金属イオンを節として有機分子により連結されたネットワーク構造を有する。新物質が得られたら,まず,結晶構造解析を行う。バシッとすべての原子サイトがorderしてすっきり決まることもあれば,disorderと呼ばれる複数サイトが観測される場合も多々ある。従来は,orderしているかdisorderしているかの2種類で結晶構造が考察されてきたが,近年,correlated disorderという結晶構造を理解する上での新しい概念が提唱されている1)。これは,構造解析においてユニットセル内の有機配位子などにdisorderが観測されたとしても,パズルピースの凹凸が凸凸では並べないのと同様に,結晶全体を幾何学的にみていけば隣り合った配位子の向きなどが法則にのっとって決まるはずだという考えである。物性におけるspin frustration系などと類似しており,geometric frustrationを考慮した高度な構造化学として実証されつつある2, 3)。また,結晶構造中の欠陥を理解する上でも重要な考えである。例えば,伝統的な錯体骨格であるプルシアンブルー類縁体(PBA)は,シアニド錯体ユニットの欠陥に由来する機能性が活発に開拓されてきた。従来の構造解析においては占有率の調整により精密化がはかられるが,シアニド架橋構造体中の錯体ユニットが丸ごと欠けることで,隣接する部位の取り得る構造には規則性が現れる。このcorrelated disorderにより,空隙がネットワーク化することでPBAは多孔性を示す(図)4)。基礎的な構造学理とも言えるcorrelated disorderが,MOFの機能性開拓に対して今後どのように影響してくるのかに興味がもたれる。

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1) E. G. Meekel, A. L. Goodwin, CrystEngComm 2021, 23, 2915.
2) A. L. Goodwin, S. Kaskel et al., Nat. Chem. 2021, 13, 568.
3) E. G. Meekel, A. L. Goodwin et al., Science 2023, 379, 357.
4) A. L. Goodwin et al., Nature 2020, 578, 256.

大谷 亮  九州大学大学院理学研究院