有機材料の光誘起電荷分離は,主に電子ドナーとアクセプターの界面で観測され,有機太陽電池や光合成の初期過程として知られる。通常,生成した電荷(ホール,電子)は短寿命であり,すぐに電荷再結合をしてしまうが,極端なドナー/アクセプター混合比や電荷トラップ機構を利用することで,電荷分離状態として電荷を蓄積することが可能となる1, 2)。この蓄積電荷の再結合が室温程度の熱エネルギーによって徐々に起きると長時間発光(蓄光)が得られ,積極的な熱・光刺激によって促進されると熱・光刺激発光となる3)。
有機蓄光はドナーとアクセプターの混合膜で構成されるが,特にイオン性材料を利用した場合に相溶性や非相溶性(相分離性)などの課題がある。そこで,ドナーユニット(DU)とアクセプターユニット(AU)を側鎖に有するコポリマーを作成した(図)4)。AU含有量はDUの0.5%程度であり,DUとAU界面で光誘起電荷分離が起きた後,ホール拡散によって電荷分離状態が保持される。その結果,DUとAUの電荷移動発光に起因する波長約700 nmの蓄光が得られた。さらに電荷トラップ/発光材料(T/E)を添加した結果,ホールトラップにより電荷保持能が向上するとともに,Förster型エネルギー移動によりT/Eから約900 nmの蓄光が得られた。
このようなコポリマーは材料自体が固体で蓄光を示し,T/Eによって発光波長を容易に制御できることから,汎用蓄光剤やイメージングへの応用が期待される。
1) R. Kabe et al., Nature 2017, 550, 384.
2) K. Jinnai et al., Nat. Mater. 2022, 21, 338.
3) M. Sakurai et al., Commun. Mater. 2021, 2, 74.
4) Z. Lin et al., Angew. Chem., Int. Ed., 2024, 63, e202314500.
嘉部量太 沖縄科学技術大学院大学