細胞外小胞の一種であるエクソソームが細胞間の物質輸送を担っていることが明らかとなり,生体が備える薬物輸送システム(DDS)として注目されている。
エクソソームをDDSとして利用する場合,エクソソームを単離・精製した後,薬物をエクソソームに封入する手法が一般的である1)。しかしながら,エクソソームの単離技術における精製・濃縮などには煩雑な行程が必要であり,これが実用化に際する大きなハードルとなっている。
筆者らは,エクソソームの単離を必要とせず,患者体内で分泌された内在性エクソソームを利用することで,標的組織への核酸医薬送達を可能とする新しい手法を開発した2, 3)。本法は,「エクソソームに結合しハイジャックする抗体(ExAb)」に「核酸医薬」が搭載された「抗体結合型核酸医薬(ExHijack-Oligo)」を用いるものである。
ExHijack-Oligoは,がん細胞から分泌された内在性エクソソームの表面に結合した後,エクソソームに随伴して受容細胞に核酸医薬を送達し,標的遺伝子の機能を制御する。本法は,細胞内に含まれる内在性遺伝子だけでなく,エクソソームに含まれるmicroRNAの機能制御も可能である。これまでに肺がん細胞,口腔上皮がん細胞の増殖抑制に成功しており,がんなどの重篤疾患に対する新たな治療法となり得る可能性を秘めている。
1) I. Herrmann et al., Nat. Nanotech. 2021, 16, 748.
2) A. Yamayoshi et al., Pharmaceutics 2020, 12, 545.
3) S. Oyama et al., Chem. Pharm. Bull. 2023, 71, 819.
山吉麻子 東京科学大学生命理工学院