金属触媒を用いたC-O結合の水素化分解反応は,プラスチックのリサイクルやバイオマスの化学利用に関連して近年注目を集めている。Iwasakiらは最近,ポリウレタンをホルムアミドとアルコールへと選択的に水素化分解するIr錯体触媒を報告した1)。本系の特徴は,従来触媒とは異なり,ホルムアミドのカルボニル基が保持される点にある。ホルムアミドは,アルコールとの脱水素縮合によりウレタンを再生可能なため,本反応はポリウレタンの新しいリサイクル法となる可能性がある。また,LiaoらはNi錯体を触媒としたエポキシ樹脂類の水素化分解反応を報告している2)。この反応では基質に含まれるアリールエーテルのC-O結合が選択的に分解され,ビスフェノールAが回収される。この選択性は,基質のアリール基がNiにπ配位する"リモート酸化的付加"で説明される。
筆者らは,Ru-Ir異種金属錯体を触媒とするアリルアルコールの水素化分解反応を報告した3)。C=C結合は還元されず,C-O結合が選択的に水素化分解されてプロピレンが生成する。IrをRhに置き換えた錯体を用いると,電解による脱酸素還元も可能である。アリルアルコールは植物油由来のグリセリンから合成可能なため,本反応はバイオマスからのプロピレン生産への応用が期待される。
1) T. Iwasaki et al., J. Am. Chem. Soc. 2024, 146, 25562.
2) Y. Liao et al., J. Am. Chem. Soc. 2024, 146, 2419.
3) K. Kawaji et al., Chem. Commun. 2024, 60, 9424.
竹本 真 大阪公立大学大学院理学研究科