光励起された分子から有機基質への電子移動で生じる酸化還元反応を用いる光駆動有機合成は,グリーンな手法として期待されている1)。酸化チタンなどの半導体光触媒と金属錯体を複合した触媒システムは,単純な酸化還元反応に支配される反応だけでなく,金属錯体との協奏でさらに精密な有機合成を創出できる2)。
このような戦略に基づき,可視光応答性の光触媒(Mg2+/TiO2)にコバルト錯体のビタミンB12誘導体を共修飾したB12-Mg2+/TiO2を用いて,四塩化炭素(CCl4)の可視光駆動カルボニル化反応が報告されている3)。Mg2+/TiO2への可視光照射で生じる励起電子は,錯体側に効率良く移動し,Co(I)種を与える。Co(I)はCCl4と好気下で反応し,中間体のホスゲンを生成し,連続する各種求核剤との反応でウレア,カルバメート,炭酸エステルへ最大90%の収率で変換されている。
金属錯体との協奏効果は,バルク半導体のみならず,半導体ナノ粒子まで及び,粒子径を5.7 nmに制御した硫化カドミウム量子ドット(CdS-QD)とニッケル錯体(NiCl2・dme)によるシステムでは,ハロゲン化アリールとハロゲン化アルキルの還元的クロス求電子剤カップリング反応を約40~80%の収率で促進している4)。
これらは,洗練された光駆動有機合成を実現するための中枢を担う技術として期待される。
1) D. W. C. MacMillan et al., Chem. Rev. 2013, 113, 5322.
2) K. Shichijo et al., ChemPlucChem. 2024, 89, e202400041.
3) K. Shichijo et al., Chem. Eur. J. 2024, e202403663.
4) J. M. Mouat et al., ACS Catal. 2023, 13, 9018.
七條慶太 大阪大学産業科学研究所