脱芳香族化反応は,生物活性化合物の生合成において重要な経路であり,有機合成でも多くの手法が開発されている。特に,アレノールのような電子豊富な芳香族化合物は,共鳴安定化エネルギーが小さく,穏やかな条件下でも脱芳香族化されやすい。例えば,2位または4位に置換基を持つフェノール類は,酸化的条件下で適切な求核剤と反応し,数多くの生物活性物質の合成中間体としてシクロヘキサ-2,4-または2,5-ジエノンを生成する。この反応によって,平面構造を有する原料が3次元的立体構造に変換されるが,こうしたプロセスにおけるジアステレオ選択性やエナンチオ選択性の制御は難題であり,近年注目を集めている1)。
筆者らは,ハロゲンを活性中心とする酸化触媒,特にキラル超原子価ヨウ素(III)触媒2),キラル第四級アンモニウム次亜ヨウ素酸塩触媒3),そして最近では次亜臭素酸塩触媒4)を開発し,アレノールの不斉酸化的脱芳香族化カップリング反応に応用してきた。
以上の研究成果について,2024年夏に東京大学駒場IキャンパスKOMCEE Westレクチャーホールで開催された生産技術・製品開発ディビジョン勉強会で発表し,産学両方の参加者から多くの貴重な意見を頂戴した。
1) S.-L. You, Ed., in Asymmetric Dearomatization Reactions, John Wiley & Sons, Weinheim, 2016.
2) M. Uyanik, T. Yasui, K. Ishihara, Angew. Chem., Int. Ed. 2010, 49, 2175.
3) M. Uyanik, T. Kato, N. Sahara, O. Katade, K. Ishihara, ACS Catal. 2019, 9, 11619.
4) T. Kato, N. Sahara, S. Akagawa, M. Uyanik, K. Ishihara, Org. Lett. 2024, 26, 7255.
ウヤヌク ムハメット 名古屋大学大学院工学研究科