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優れたCISS特性を示すキラル二面性π共役ポリマー

Chiral Bifacial π-Conjugated Polymers with CISS Property

キラルな物理量であるスピン偏極電流が,ホモキラル物質中でスピンの向きに応じてそれぞれ異なる値を示すCISS(Chirality-Induced Spin Selectivity:不斉誘起スピン選択性)は,近年大きな興味が持たれている物理現象である1)。このCISS現象により,通常のスピン非偏極電流をキラル物質中に通過させるとスピン偏極電流が発生するスピンフィルター効果が発現し,新たなスピン偏極電流の発生法としても注目されている。このスピンフィルター性能の指標は,スピン偏極率で表され,現在,高いスピン偏極率を持つキラル材料探索に向け,すでに数値競争の様相も呈しており,有機無機問わず様々なキラル材料のスピン偏極率の測定が行われている2)
キラル材料の中でも,キラルなπ共役ポリマーは,スピンコートなどの簡単な方法で良質な薄膜を形成できるため,スピンフィルター材料としても有用と考えられるが,これまでに高いスピン偏極率は観測されてこなかった。今回筆者らは,高い電荷輸送特性を示すインダセノジチオフェン(IDT)骨格中のsp3炭素原子が不斉中心となる「二面性キラルIDT骨格」を含むキラルなπ共役ポリマー(poly-(S,S)-IDT, poly-(R,R)-IDT)を開発し,そのスピンコート薄膜が約70%のスピン偏極率を持つスピンフィルターとして機能することを見いだした3)。この要因としては本ポリマーの良好な成膜性に加え,導電性を担うIDT骨格に不斉中心が直結しているためと考えているが,現在,CISS特性の詳細な構造物性相関研究は未開拓であり,今後の検討課題である。

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1) B. P. Bloom et al., Chem. Rev. 2024, 124, 1950.
2) D.-Y. Zhang et al., J. Am. Chem. Soc. 2024, 145, 26791.
3) S. Li et al., Chem. Commun. 2024, 60, 10870.

石割文崇  大阪大学大学院工学研究科