持続可能な社会の実現のため,生態環境評価技術の重要性は増大している。近年,従来の実数調査に代わる,より迅速簡便な調査手法として環境DNA(eDNA)を用いた生態調査が注目を集めている1)。これは,排出された生物由来のDNAから生態環境を評価する手法であり,環境試料から抽出したDNAを次世代シーケンサーで解析することでその環境中の生物を網羅的に評価できる。しかし,環境試料の採取の簡便さに比べて,実験室でのろ過・DNA抽出などの試料調製は煩雑である。また,着目する生物種が決まっていれば熟練を要する次世代シーケンサ解析は必要なく,環境の現場で誰もが手軽に使える評価技術が求められている。
そこで筆者らは,対象とする環境のその場評価を可能とする迅速簡便なセンシング法の開発に取り組んできた。複数フィルターによる迅速ろ過技術とフィルター上の直接DNA処理とを組み合わせ,河川水中の細胞の回収からDNA試料の調製までを従来2時間程度のところ10分で完了する迅速簡便な前処理法を開発した2)。さらに,標的核酸の認識により電気化学信号が変化するスイッチ機能を有するセンサ原理に基づき,標的核酸の非標識検出を可能とする核酸センサアレイを開発し,環境濃度のわずか38個mL-1の細胞の有意な簡便検出に成功した3)。本技術は従来法と相補的に活用することで,強力な生態環境評価ツールとしての活躍が期待される。
1) K. M. Ruppert et al., Glob. Ecol. Conserv. 2019, 17, e00547.
2) M. Kawaguchi et al., Anal. Sci. 2024, 40, 501.
3) H. Aoki et al., Sensors 2024, 24, 7182
青木 寛 産業技術総合研究所環境創生研究部門