筆者らは30年以上未解決の課題とされてきたカーボンナノチューブ(CNTs)のカイラリティ制御合成に関して,近年特筆すべき成果を得た。CNTsの合成には触媒ナノ粒子が必要であり,カイラリティ分布に触媒が影響を与えることは古くから追究されてきた。一方でCNTsの合成触媒は主に1元あるいは2元系の金属ナノ粒子に限定されており,3元系以上は未開拓領域であった。そこで,筆者らはニッケル(Ni)を基本触媒とし,これに様々な元素を第2因子として追加した41種類の2元系触媒を作成し,CNTs合成実験を網羅的に行った。その結果,第2因子としてスズ(Sn)を加えた触媒において(6,5)CNTsの純度が80%以上(Niのみでは34%)に達することを発見した。さらにこのNiSn触媒に18種類の元素を第3因子として追加した3元系触媒を探索したところ,NiSnFe触媒において,(6,5)CNTsの合成収量がNiSnに比べ6倍以上に向上することを発見した。新たに開発したNiSnFe触媒を用いて,合成温度や前処理などの合成条件を詳細に最適化した結果,(6,5)CNTsを純度約95%(世界最高純度)で合成することに成功した1)。
詳細なCNTs生成メカニズム解明にも取り組み,NiSnFe触媒ナノ粒子がコア/シェル構造をとり,コアの一部にNi3Snという特異な結晶相が存在すること,このNi3Sn(0001)面の特定の原子配列が(6,5)CNTsのカイラリティを決定する主要因であることを明らかにした。ほぼ1種類のカイラリティのみが存在する"CNTsの単一カイラリティ合成"と呼べる本成果は,30年以上未解決課題であるカイラリティ制御合成に繋がる極めて重要な成果である。
1) S. Shiina et al., ACS Nano 2024, 18, 23979.
加藤俊顕 東北大学大学院工学研究科/材料科学高等研究所