日本化学会

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構造最適化プロセスを効率化するペプチドスキャニング手法

Peptide Scanning for the Structural Optimization

近年の創薬化学研究において,中分子ペプチド化合物は,幅広い相互作用面による高い標的親和性・特異性と,化学合成による合成容易性を併せ持つ特徴から,新規創薬モダリティとして注目を集めている。筆者らは,ペプチドの構造最適化を迅速に達成するために,ペプチドスキャニング1)in situ化学2)を組み合わせた新規ペプチドスキャニング手法(TDAスキャニング)を開発した3)。本手法ではまず,親ペプチドの各アミノ酸残基を,側鎖に1,2-アミノアルコールを有する人工アミノ酸(スレオニルジアミノブタン酸:TDA)により置換したスキャニング誘導体を系統的に合成し,その生物活性を評価する。生物活性を保持する置換位置のアミノ酸残基は,活性への寄与が小さく,その部分の変換が可能と推測される。こうして得られた生物活性を保持するスキャニング誘導体に対して,セリン-スレオニンライゲーションを用いたin situ化学修飾により,網羅的に誘導体を合成することで,構造改変が可能な部位の探索と,その後の誘導展開をシームレスに実現することができる。本手法を,抗菌ペプチドであるポリミキシンに応用することで,薬剤耐性菌に対して活性の向上した誘導体や抗菌スペクトルを改変した誘導体の獲得に至った。本手法はペプチド全般に適用可能であり,構造最適化に多大な時間と労力を要する中分子ペプチドの創薬研究を加速させることが期待される。

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1) J. A. Wells et al., Science 1989, 244, 1081.
2) C.-H. Wong et al., Chem Biol. 2002, 9, 891
3) R. Kaguchi et al., J. Am. Chem. Soc. 2023, 145, 3665.

勝山 彬   北海道大学大学院薬学研究院