アリールボランは,鈴木-宮浦反応をはじめとする様々な官能基変換における重要な合成中間体である。近年,ホウ素原子の特性が注目され,これらの化合物は材料科学や創薬研究において重要な役割を果たしている。
従来,アリールボランは,ホウ素の空のp軌道に由来する反応性を利用した求電子的ホウ素化反応により合成されてきた。一方で,宮浦-石山ホウ素化反応のように,ハロゲン化アリールを求電子剤として用いた手法も報告され,多彩なアリールボランの合成が可能となった。
1980年代,Robertsらにより,Lewis塩基により安定化された3配位ホウ素ラジカルが求核性を示すことがESRなどを用いた研究1)で明らかにされたが,この知見は合成化学に応用されていなかった。
2015年のCurranらの研究2)を皮切りに求核的ラジカルホウ素化反応に関する研究が活発化した。しかし,求核的ラジカルホウ素化による,アリールボランの合成は最近まで達成されていなかった。2020年,複数のグループがパーフルオロアレーンに対するラジカルホウ素化反応を報告した3)。また2021年,Leonoriらのグループはキノリンなどのアジン類に対する,酸化的ラジカルホウ素化反応を達成した4)。筆者らのグループは,単純なアリールスルホンに対するホウ素化反応を見いだした5)。今後,求核的ラジカルホウ素化のさらなる発展による,多彩なアリールボランの合成に期待したい。
1) 例えば,B. P. Roberts et al., J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1983, 2, 743.
2) D. P. Curran et al., J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 8617.
3) 例えば,J. Wu et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2020, 49, 4009.
4) D. Leonori et al., Nature 2021, 595, 677.
5) T. Kawamoto et al., ChemRxiv 2024, 10.26434/chemrxiv-2024-zbfbj
川本拓治 山口大学工学部応用化学科