太陽光エネルギーを用いた物質変換により,化学ポテンシャルの高い化合物群を製造する技術は,人類の化石資源への依存度を低減させ,循環型社会を構築する観点で重要である。その中の1つに集光した太陽光による加熱作用(太陽熱)を利用して,吸熱反応を進行させる手法がある。
筆者らは,最近,気固界面での不均一触媒反応系に対して,光により触媒材料を直接加熱して形成される温度勾配場を反応に利用する取り組みを行ってきた。例えば,メタンの水蒸気改質は,600℃以上の反応温度を必要とする激しい吸熱反応であるが,光加熱により反応に必要なエネルギーを供給することにより反応が効率的に進行するだけでなく,形成される温度勾配場を利用することで,生成物分布を制御可能である1)。また,メタンとCO2を反応させるドライ改質反応でも,光照射スポットの位置を変化させることにより,温度分布を変化させ,基質ガスの転化率2)や生成物3)が劇的に変化する。反応条件下で形成される温度分布は,熱伝導率などの触媒材料自体の物性でも変化し,反応性能に影響を与えることがわかっている4)。光加熱型反応では,典型的な不均一触媒反応とは異なる温度分布(や反応環境)が実現される点に特徴がある。
太陽光を利用して安価かつ豊富な原料から高付加価値な化合物を製造できれば,化石資源に依存しない循環型社会の構築に貢献する新技術シーズになり得る。上述の研究成果を基礎として,太陽光加熱を利用した革新的な触媒プロセスが開発され,社会実装に繋がっていくことを期待している。
1) A. Yamamoto et al., Catal. Sci. Technol. 2023, 13, 1755.
2) A. Yamamoto et al., ChemCatChem. 2025, 17, e202401396.
3) A. Yamamoto et al., Solar RRL. 2025, in press. doi: 10.1002/solr.202500021
4) A. Yamamoto et al., ACS Appl. Energy Mater. 2023, 6, 7627.
山本 旭 近畿大学理工学部応用化学科